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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)221号 判決

控訴人(一審被告・反訴原告) 日光レジン工業販売株式会社

右代表者清算人 柳靜一郎

右訴訟代理人弁護士 佐藤融

被控訴人(一審原告・反訴被告) 日光レジン工業株式会社

右代表者代表取締役 吉澤寛治

右訴訟代理人弁護士 高橋信正

主文

一  原判決主文第一項を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、金一四一万三二〇〇円及びこれに対する昭和五二年三月一〇日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の本訴請求を棄却する。

二  本件控訴中反訴請求に係る部分を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ、本訴反訴とも、これを六分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の本訴請求を棄却する。反訴請求として、被控訴人は控訴人に対し、金三二二万三〇六三円及びこれに対する昭和五七年九月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者の主張は、左記のとおり訂正、追加するほか、原判決事実摘示第二と同じであるから、それをここに引用する。

(原判決の訂正)

原判決四丁裏八行目「昭和五二年一月ころ」の次に「よりも前に」を、同五丁表三行目「これに対する」の次に「弁済期の後で、」を、それぞれ加え、同一〇行目「原告主張のころに」を削除し、同裏一行目「右三〇万円」の次に「の売掛金債権が発生したのは昭和五一年七月三一日以前であり、右売掛金」を、同八丁裏四行目「けれども、」の次に「被控訴人が右和解の趣旨に反して、控訴人の右工事の続行を妨害したため、」を、同八行目「不当解除」の次に「及び右工事の続行に対する妨害行為」を、それぞれ加える。

(控訴人の当審における追加抗弁)

本訴請求原因4について

右4記載の金三〇万円の売掛金債権は、民法一七三条一号にいう生産者の産物及び商品の販売代金債権であるところ、

1  右債権の発生日時は昭和五一年七月三一日以前であるから、少なくともその後二年を経過した昭和五三年六月三〇日(主張のまま)をもって、同号所定の消滅時効により消滅した。

2  仮に右債権の発生日時が昭和五二年一月ころであるとしても、その後二年を経過した昭和五四年一月三一日ころまでには、同号所定の消滅時効により消滅した。

よって、控訴人は本訴において右消滅時効を援用する。

(右抗弁に対する被控訴人の認否並びに再抗弁)

民法一七三条一号の債権にあたる旨の主張を争う。

仮に本訴請求原因4記載の金三〇万円の売掛金債権について、民法一七三条一号所定の二年間の短期消滅時効の適用があるとしても、被控訴人は昭和五二年三月三日、控訴人を被告として、本件訴訟を当初約束手形金請求訴訟として提起したものであり、右請求に係る約束手形は被控訴人・控訴人間の取引決済のために振り出されたもので、その取引の中には右金三〇万円の売掛金債権も含まれているのであるから、右訴訟の提起により、原因債権たる右売掛金債権についてもその権利行使がされたものというべく、控訴人主張の消滅時効は右訴訟の提起によって中断したものである。

(右再抗弁に対する控訴人の認否)

争う。

三 《証拠関係省略》

理由

当裁判所は、当審における資料を加えて本件全資料を検討した結果、被控訴人の本訴請求は主文一の1記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべく、控訴人の反訴請求は理由がないので棄却すべきものと判断する。

その理由は、左記のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示(原判決一〇丁表一〇行目以下同一七丁表六行目まで)と同じであるから、それをここに引用する。

一  原判決一〇丁表末行「争いがない。」を「争いがなく、原審における控訴人代表者柳靜一郎(以下柳という。)本人尋問(第一、二回)の各結果と同尋問の各結果によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第一ないし第三号証に弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人の控訴人に対する請求原因2の売掛金残債権の弁済期は、昭和五二年一月一五日には到来していたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。」と、同一一丁表一行目「被告は販売のみの会社であるために」を「控訴人には」と、各訂正し、同裏五行目「被告の主張」の次に「(抗弁1の(一))」を、同六行目「右本人尋問の結果」の次に「及び弁論の全趣旨」を、同八行目「号証」の次に「(公証人作成部分の成立は争いがない。)」を、それぞれ加え、同九行目「原告代表者本人尋問(第二回)の結果」を「原審(第二回)及び当審における被控訴人代表者吉澤寛治(以下吉澤という。)本人尋問の各結果」と訂正する。

二  同一二丁表六行目「計算」の次に「(被控訴人と株式会社ニッコーとの各月取引高の一〇パーセントの算出)」を加え、同七行目から八行目「これにより真正に成立したものと認められる」を「前顕」と訂正し、同一三丁表二行目「うすれること、」の次に「なお、前顕乙第三〇号証は、被控訴人の取締役であった柳田清が、被控訴人代表者吉澤から、勤務態度の怠慢や私生活の不良を指摘されて退職を迫られ、昭和五七年六月二五日に被控訴人会社を退職し、その約一か月後にはじめて作成されたものであること(右乙第三〇号証及び前顕被控訴人代表者吉澤本人尋問の各結果によって認められる。)」を、同五行目「相殺の抗弁は、」の次に「その主張に係る自働債権の存在を認めることができないので、」を、同七行目「3の(一)」の次に「、(二)」を、それぞれ加える。

三  同一四丁裏一〇行目以下同一五丁表九行目まで全部を左記のように改める。

「五 次に、被控訴人の請求原因4並びにこれに対する控訴人の当審における追加抗弁(短期消滅時効)について審按するに、請求原因4のうち、被控訴人が控訴人に対し、代金三〇万円で製品を販売したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と《証拠省略》を総合すれば、被控訴人・控訴人間の右売買の目的物は、浄化槽関係の製品であって、当該取付工事の個別的設計仕様に合わせて被控訴人会社で製造されたものと認められること、控訴人は、被控訴人の販売代理店として、昭和五一年夏ころ、被控訴人から仕入れた右製品を群馬南徳建設工業株式会社(以下群馬南徳という。)に売却し、群馬南徳から同年九月一〇日、額面金三〇万円の約束手形(支払期日・昭和五二年二月二〇日)を受け取り、そのころ、右手形を被控訴人からの前記仕入代金の支払のため、被控訴人に裏書譲渡したこと、ところで、請求原因2の売掛金債権九五二万〇二〇〇円は、被控訴人と控訴人との昭和五一年一二月までの取引の売掛金のうちから、被控訴人が控訴人から代金支払のための手形を受け取った売掛金分を、右手形が支払期日到来前のためいまだ決済されていなくても、一応弁済があったものと取り扱って除外し、その余の売掛金を合計したものであること、したがって、被控訴人の控訴人に対する前記金三〇万円の売掛金債権は、請求原因2の売掛金債権九五二万〇二〇〇円中には含まれていないこと(請求原因2の基礎となる計算書を作成した控訴人代表者柳も、その旨を自認している。)、しかるところ、群馬南徳に係る前記額面金三〇万円の手形は、昭和五二年二月二一日不渡りとなったもので、被控訴人の控訴人に対する右金三〇万円の売掛金債権は結局弁済にはならなかったことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そこで、叙上認定の事実によれば、被控訴人の控訴人に対する右金三〇万円の売掛金債権(その弁済期は遅くとも昭和五二年二月二〇日。)は、請求原因2の売掛金債権とは別個のものであるところ、右金三〇万円の売掛金債権に係る売買の目的物は、当該取付工事の個別的設計仕様に合わせて被控訴人会社で製造された浄化槽関係の製品であり、その性質上、流通を予定していないものと考えられるから、民法一七三条一号の規定の趣旨・法意に照らし、右金三〇万円の売掛金債権は、同号所定の「生産者が売却した産物及び商品の代価」たる債権には当たらないものといわなければならない(最高裁判所昭和四四年一〇月七日第三小法廷判決・民集二三巻一〇号一七五三頁参照)。

そうとすれば、控訴人の当審における追加抗弁(短期消滅時効)はその余の点について判断するまでもなく理由がないものであり、被控訴人は控訴人に対して請求原因2の売掛金残債権のほかに右金三〇万円の売掛金債権を有するというべく、請求原因4は結局理由がある。」

四  同一五丁裏二行目「当初の」以下同三行目「一〇日」までを、「弁済期の後で、記録上本訴状送達の日の翌日であると認められる昭和五二年三月一〇日(本件記録によれば、本訴状の受付日は昭和五二年三月三日であり、本訴状副本の発送年月日は同年三月八日であることが明らかであるから、本訴状等の郵便送達報告書中の『送達年月日時・昭和五二年二月九日』なる記載部分は、昭和五二年三月九日の誤記であると認められる。)」と訂正する。

五  同一六丁表七行目「反訴原告」を「被控訴人(反訴被告)」と訂正し、同一七丁表一行目と二行目の間に、「なお、控訴人は、前記金二五〇万円の損害は、被控訴人が、本件工事契約(羽鳥小学校浄化槽内部設備工事契約)について成立した和解の趣旨に反して、控訴人の右工事の続行を妨害したことに起因して発生したものである、とも主張するが、本件全資料を検討するも、被控訴人と控訴人との間に前記『工事契約についての同意契約書』記載の合意が成立した後、被控訴人が右合意に反して控訴人の右工事の続行を妨害したことを認めるに足りる証拠はない。

よって、反訴請求原因1は理由がない。」を加入する。

以上の次第で、被控訴人の本訴請求は主文一の1記載の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべく、控訴人の反訴請求は理由がないので棄却すべきである。よって、本件控訴は一部理由があるから、これと結論を一部異にする原判決主文第一項を右判示の趣旨に変更し、本件控訴中反訴請求に係る部分は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤静思 裁判官 奥平守男 橋本和夫)

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